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今月のクレープストーリー(毎水曜更新)

【ハロウィンの黒猫】

 このお話はおとぎばなしです。

可愛い黒猫ちゃんと美味しいお菓子探しの旅に出発です!

 

ハロウィンまであと一ヶ月。

 

街の中ではまだ暑い最中からハロウィン商戦が始まっていてありがたみが薄れつつあるが、やはり本番が近づいてくるとウキウキして気分が盛り上がってくる。

 

私は小さいお菓子屋さんを営んでいる。

なので、ハロウィンなどのイベントに合わせて新しいお菓子を考える。

 

お菓子作りは楽しい。

小さい頃からずっと夢はお菓子屋さんになることだった。

お菓子屋さんは私の大好きなお菓子をすっと作っていられる夢の職業だったから。

 

 実際、季節のイベント毎に新しいお菓子を考えるのはとても楽しく、作っても作っても次から次へ新しいアイデアが生まれる。

私が食べたいお菓子をそのまま作れるこの仕事が大好きだった。

 

 ーーさて、今年はどんなお菓子をハロウィン作ろうかな。

 机に向かって紙とペンを前に考えを巡らせる。

30分…一時間…二時間

 

ーーう~ん、何も浮かばないなあ。

 いつもはちょっと考えただけですぐにアイデアが浮かんでくるのに…。

しかし、今日は全く何も浮かばない。

 ーーこんな日もあるのかしら?まだハロウィンまで日があるからそのうち浮かぶでしょう!

持ち前のポジティブさで気持ちを切り替える。

 

私は紙とペンを机の上の出したまま店の開店準備のために階下に降りていった。

 

 それから数日経ち再び机の上の紙とペンに向き合う。

30分…一時間…二時間

 やはり何も浮かばない。

 

ハロウィンまであと3週間。

 ーーどうしよう…何も出てこない。こんなこと初めてだわ…

 こんなにアイデアが出てこないのは今までにない経験だった。

焦りだした気持ちを静めるように窓を開けて風を入れる。

 澄んだ朝のそよ風が頬をなでる。

少し冷えだした空気に頭も一気に冴えわたった。。

 ーー気分も変わったし良いアイデアも出るかしら。

そう思って再び机に向かうが一向にアイデアは浮かばない。

 いつもは気楽に構えている私も内心焦りだしていた。

 

まとまらない頭を抱えて二時間も机の前から動けない。

流石に疲れて窓の外を見る。

薄い茜色に細い雲がたなびく空を二羽のカラスが横切ってゆく。

 

ーーもう夕方だわ。

途方に暮れて窓まで行き心呼吸する。

 

すると軒先の煉瓦塀の上を一匹の黒猫が歩いているのが見えた。

私の気配に気がつくとピタッと動きをとめ私をじっと見上げている。

次の瞬間私のいる窓目掛けて飛び上がってきた。

 

ーーうわっ!

びっくりして後ずさる。

猫は勢いそのままに部屋の中に飛び込んで、机の上に着地した。

その拍子に机の上に置いてあったレシピ集が床に落ちた。

 

ーーああ!びっくりした。

猫は机の上に立ったままこちらをじっとみている。

 

ーーおまえはどこの子?

部屋に入ってくるなんてびっくりするじゃない?そういうと可愛い声でミャ〜と鳴く。

 

なんとなくタイミングがぴったり合ってなんだか今の質問に答えているような気がした。

 

ーーおいで

と手を差し出すと机の上から飛び降りレシピ本の前に座っている。

 

猫を撫でようと屈むとレシピ本の開いたページが見えた。

香ばしいアーモンドのキャラメリゼがツヤツヤ光って美味しそうな写真が載っている。

 

本を拾い上げようとすると黒猫が「パシッ」とページに手を掛け拾わせようとしない。

 

手をのけたのでもう一度拾おうとするがその都度「パシッ」と手を掛け拾うのを邪魔する。

 

ーーこのお菓子が好きなの?

するとミャ〜と可愛い声で鳴く。

 

ーーふ〜ん。アーモンドのキャラメルコーティングか。

なんだか落ち葉のパレットみたいで秋にぴったりかもしれない。

 

もしかしてこの黒猫ちゃん一緒にお菓子作りを手伝ってくれるのかしら?

 

それにちょうど悩んでいる時だったし、この黒猫ちゃんが一緒に考えてくれるなら頑張れそう!(笑)

 

ーー気合いを入れ直そう!

ここで黒猫ちゃんが現れてくれたのも渡りに船だわ。

 

ーーよし!悩んでいるより一緒に考えよう!なんだか少し元気が出てきた!

 

私は沈んだ気持ちを、持ち前のポジティブさで明るく切り替えた。

 

隣で今、出会ったばかりの黒猫ちゃんが「ミャ〜」と可愛い鳴き声をあげて私を見上げていた。

 

アイデアが浮かぶと俄然やる気が出てくる。

早速、近所のスーパーへ食材の買い出しに出かけた。

スーパーへの道すがらあの黒猫ちゃんがずっと私の足元について来た。

猫がこんなに懐くのも珍しい。

 

スーパーの入り口に到着すると黒猫ちゃんは入り口に止まり私をじっと見上げていた。

「早く戻るからね」

そういうと私はスーパーの中に入って行った。

 

スーパーの豆類のコーナーには様々な種類のナッツ類が並んでいる。

ーーやっぱりキャラメリゼといったらアーモンドかしら?

アーモンドのキャラメリゼは割と一般的だ。

見た目も綺麗だしすごく映えるだろう。

 

カシューナッツ、胡桃、ホールのままのアーモンド…。

気になるナッツがたくさん並んでいる。

どれも美味しそうで目移りしてしまう。

ーーどれにしよう

決めかねて悩んでいると窓の外で黒猫ちゃんが窓枠の端から端を何℃も行ったり来たりしているのが見えた。

その姿を見て

ーー端から端まで…棚の端から端まで!

「そうか!全部入れちゃえばいいんじゃん!」

私は気になったナッツを一袋づつ買って帰った。

 

家に帰って早速キャラメル作りから始める。

 

生クリームがホンワリまろやかにとろ〜りとしたキャラメル。

それをひとつひとつ丁寧にローストしたアーモンド・胡桃・カシューナッツなどとざっくり絡める。

オーブントースターに薄く敷き詰め、キャラメルがブクブクするまで焼く。

オーブンの扉を開けるとキャラメルの甘い香りとナッツの焼ける香ばしい香りがキッチンいっぱいに広がった。

 

 焼きたてのキャラメリゼはまだブクブクと気泡を立て熱い。

直ぐにでも味見をしたいがまだ完成ではない。

これから冷ましてナッツをキャラメルコーティングするのだ。

 

熱が取れるまでの間、他のトッピングを考える。

リビングでお菓子の本を片っ端から開いて読み漁る。

 

ーーキャラメルソースをかけるのはどうかしら?

それとも何かフルーツをトッピングする?

 

悩んでいると窓の外にあの黒猫ちゃんが座っている。

ガラス戸を開けて部屋に招き入れる。

暖かい室内に入って嬉しそうにノビをし、私の横で丸くなった。

 

ーー可愛い。あなたはホントにどこから来たの?

 

毛並みの美しさから誰かの飼い猫なのは明らかだ。

それに随分と人慣れしている。

 

だれかの家でこんなに寛いでいる猫もそうそう居ないのではないかしら?

思わずその身体を撫でる。

猫特有の温かさと柔らかさが伝わってきて私の気持ちをホッとさせた。

 

そろそろキャラメリゼが出来上がった頃である。

 

キッチンに戻って作業再開だ。

キャラメリゼは程よく固まってナッツの食感と相まってサクサクして楽しい。

思ったより甘みがしっかりしていてこれだけで十分美味しい。

試しにキャラメルソースをかけたり、ラズベリーをトッピングしてみたが逆にキャラメリゼの味をぼやけさせてしまう。

 

イケル!

キャラメリゼだけが一番美味しい!

完成だ!

 

ホイップクリームの滑らかさとキャラメリゼのしっかりした甘さがベストマッチした自信作が完成した。

 

「できたよ〜!」

リビングの黒猫に向かって答える。

返事はない。

そりゃそうだ…猫だもの。

そうは言ってもなんだか気になってリビングへ行ってみる。

さっきまでソファで丸くなっていた黒猫はいない。

どこへ行ったのかしら?

思わず名前を呼んで探そうとしてハッとなった。

そういえば名前すらなかったわ…。

黒猫ちゃんと呼んでばかりで名前もなかった。

あの子なら名前はなんだろう?今度会ったら名前をつけよう。

 

そう思いながらあの黒猫ちゃんに会う機会はなかなか訪れなかった。

枯葉の積もったレンガの小径、公園のベンチ、石畳の路地裏…。

気に留めて歩いていたがなかなか会えない。

そうこうしているうちにハロウィンの新作の準備で忙しくなり猫ちゃん探しは二の次になっていった。

新作の「ナッツ・キャラメリゼ」はすこぶる好調で連日完売続き。

あまりに好評なのでハロウィンを超えて販売継続になった。

 

ハロウィンが過ぎ少しずつ平常に戻りつつあった初冬の午後。

いつものスーパーの帰り。

通りかかった洋館の軒先き。

品の良いおばあちゃんとその横にくるまって眠っている黒猫がいた。

 

ーーあの黒猫ちゃんだ。

暖かな冬の日差しの中幸せそうに丸くなって眠っている。

ーーこのお家の猫ちゃんだったんだ。

素敵な洋館と品のいいおばあちゃん。

なんだか黒猫ちゃんにぴったり似合っている。

 

ーー幸せそうで良かった。少し心配したんだよ。でももう安心したよ。

そう心の中で呟く。

ーーありがとう。いいハロウィンの思い出が出来たよ。

 

さて次は冬の新作だ。

またいいアイデアが出なかったら助っ人にきてくれるかしら?

そんなことを思いながら店までの帰り道を急いだ。

 

Fin

 

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2025.11.03 Monday