4月のクレープストーリー (毎水曜更新)
二人して、降り止まない雨の矢をずっと見上げている。
気恥ずかしくて、何をしていいかも分からない二人の行く手を阻むよう雨足が強まった。
春まだ浅い四月の雨。
暖かいとはいえ、強い風と濡れた服が体温を奪い少しずつ体が冷え出す。
私たちは、無意識に暖を取ろうとお互いの体を寄せ合った。
初めてのデートは桜を見に行こう。
どちらからともない提案に二人で出かけた千鳥ヶ淵。
北の丸公園を歩きながら、幾度か触れた彼の手。
科学未来館にさしかかる頃ようやく繋いだ手は、突然の春の嵐に行き場を失っていた。
雨に立ち上る彼の香り。
私のまぶたの裏にスパークする青い火花。
盗み見る彼の横顔。
視線に気がつき彼も私を見つめる。
彼のおでこがだんだん近づき私のおでこと触れ合う。
辛そうに瞳を閉じている彼の顔。
胸の奥がキュッとなり、自然に抱き合っていた。
足元がふらつく。
瞳に景色は反射するが、実際のところ私には何も見えていなかった。
腕を解き、顔を上げられない私の顎が、指でそっと持ち上げられる。
触れた唇の余韻が残る中、
彼の指が私の指に触れた。
ゆっくりと絡まる指。
再び額が重なり、
そのまま唇が触れ合った。
熱い吐息で潤む私の視界に彼が瞳で話しかけてくる。
私は無言で頷いた。
第二話 水銀灯に浮かぶ霧雨
水銀燈の帯の中を、雨が風に流されてゆく。
誰もいない橋の上。
つい、渡ってみたくなった帰り道。
いつかの、あの離れ難くて遠回りして帰った雨の夜。
はしゃぐ私を、あなたはあきれ顔で橋のたもとから見ていた。
ふと我に返り、見上げた水銀燈に、
今夜と同じように霧雨が舞っていた。
雨さえも、ダイアモンドのようにキラキラ輝いていた光の街。
季節がめぐっても消え残った私の中の光。
今でも切なく潤む街角。
思い出に流されそうな雨の夜。
第三話 余白のなかった恋
遥か岬の上空が墨を拡げたようにみるみる滲んでゆく。
南の空からは夏まだ浅い緩やかな陽射しが、波光をきらめかせている。
まるで違う天気をぼんやり眺めている海岸通りのカフェ。
波の音に、遠くの轟音が微かに混じる。
みるみる雲は黒くなり遠くの空に現れる水柱。
雨と晴れの境目。
それは、晴れた空に雲がかかるようにもっとグラデーションがあるのだと思っていた。
いつかの恋を思い出す。
舞い上がったり落ち込んだり。
いつでも晴れか、暴風雨かのどちらかだった。
あの恋にもっとグラデーションがあったなら、どんな恋になったのだろうか…。
雨雲と晴れた虹。
両方が同じ速度でこちらに向かってくる。
さあ…こちらにはどちらが先に届くかしら?
私は土砂降りにずぶ濡れな人生と
晴れた気持ちの良い道を歩く人生、どちらを選ぶだろう?
厳しいばかりの人生などもちろん嫌だ。
でも、いつも晴れて気持ちの良い日も、それはそれで退屈なのかしら?
それが、きっと人生なのだろう。
天気図を見て雲を避け、揺れが少ない航路を選ぶ飛行機のように安定飛行を目指すこともできる。
しかし私は多分、それを選びはしないだろう。
そういう性分なのだろう。
それに、いいとこ取りばかりではバチが当たる。
天気雨にかかる虹。
ずぶ濡れであっても心は晴れやかに。
ーー立ち向かう上での心得だわ。
良い言葉が浮かんだと、私はもう一度、二つの天気が拮抗する空を見上げた。
